この2人は大会後にバラエティ番組などで何度か共演していて、その度にお互いを罵り合い、いがみ合っている。彼らがぶつかるのには理由がある。それは大会の出場資格に関する問題だ。
『R-1』では出場資格は「芸歴10年以内」であると決まっている。ところが、お見送り芸人しんいちは芸歴10年を超えている。これはルール違反ではないのか、というのがZAZYの主張だ。
一方、しんいちはこれに反論する。プロとしての活動を休止していた期間は芸歴に含めなくていい、ということもルールとして定められている。しんいちは活動休止の時期があるため、一般的な数え方では芸歴10年を超えているが、『R-1』の規定では芸歴10年以内ということになる。『R-1』の事務局にも事前に確認して許可を得た。だから全く問題はなく、ZAZYの主張はただの言いがかりに過ぎないというのだ。
それぞれの主張を聞く限りでは、しんいちの主張に分があるように見える。実際、ZAZYはしんいちに対して有効な反論を返すことができない。だが、自分が敗れた悔しさも相まって、振り上げた拳を下ろすことができない。
そんなZAZYに対して、しんいちはうんざりしたような態度でズケズケと罵詈雑言を浴びせ、挑発してみせる。ZAZYは強く言い返すこともできず押し黙っているので、掛け合いが成立せずに、気まずい空気が流れる。本来ならしんいちの主張の方が正しいはずなのに、無抵抗の相手に悪態をつく彼の方が悪者に見えてくる。
結果的にお互いがお互いの悪い部分を引き出し、足を引っ張り合っているのだ。同じ『R-1』のファイナリストである吉住やサツマカワRPGの証言によると、しんいちとZAZYは2人とも性格が悪くて嫌われているため、『R-1』決勝の舞台裏では、この2人のファイナルステージの争いを誰も真剣に見ていなかったのだという。
性格が悪くて嫌われ者の2人が、各番組でいがみ合い、泥仕合を繰り広げているところが、ドキュメンタリーとしてはたまらなく面白い。4月2日放送の『さんまのお笑い向上委員会』では、2人が口論の末に和解して、『M-1』出場を目指してコンビを結成することが決まった。
高度な漫才は感情のぶつけ合いである。憎しみ合う2人がその感情をネタに昇華することができたら、きっと面白い漫才になるだろう。それぞれの性格の悪さを引き出し合う、悪と悪の究極の融合。ピン芸人界きっての鼻つまみ者の2人には、いい人ばかりが愛されるお笑い界に暗黒の火を灯してほしい。(お笑い評論家・ラリー遠田)