実際、積極的に賄賂を取らなくても、諸大名からの進物などはかなりの額になったと想像される。

 田沼意次などは、諸大名が自分に賄賂を出すのは、将軍への敬意を示すものだと、当然のように受け取ったので、老中を務めるうちにかえって裕福になった。

 しかし、定信のように政治的理想に燃え、一切賄賂を取らないということで、それに近い進物も断るということになれば、在任期間が長くなるほど、藩財政は窮乏していくことになるだろう。

 賄賂を取るのも、その老中が私腹を肥やすためとばかりは言えず、老中の職務を遂行するための経費を捻出する手段である場合もあった。

 こうしたことは、個人的な倫理だけで解決することではなく、本来、政治のシステムから考え直す必要があったのである。

◎山本博文(やまもと・ひろふみ)
1957年、岡山県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学院修士課程修了後、東京大学史料編纂所へ入所。『江戸お留守居役の日記』で第40回日本エッセイスト・クラブ賞受賞。著書に『「忠臣蔵」の決算書』『大江戸御家相続』『宮廷政治』『人事の日本史』(共著)など多数。学習まんがの監修やテレビ番組の時代考証も数多く手がける。2020年逝去。

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