さらにこうした学生の偏りが、社会にも偏りを生んできたと林教授は考える。
「東京大は長らく男性中心の大学であり、男性の卒業生が政治家や官僚、経営者として日本社会の中心を担ってきました。ですが、それでは多様な価値観を尊重する世の中はつくり難い。今、東京大も社会も変わる必要があるのです」
なぜ、東京大では学部女子学生の割合が2割を超えないのだろうか。「男性ばかりで居心地が悪いとか、東大生と言うと男性に敬遠されてしまうとか、女子高校生が東京大を選びにくい理由はさまざまでしょう」と答える林教授。しかしそれらよりも重要な問題があるという。
「一番大きいのは、東京大を卒業したあとの将来の展望が描きにくいことだと思います。東京大出身者というと政財界のトップランナーの顔が浮かびますが、そのほとんどが男性。その輪の中に自分が入っていくことが想像しづらいのではないでしょうか。日本社会の構造が、女性が東京大を出てトップをめざすことを躊躇させているとも言えます。女性だからといって将来の選択肢を狭める必要はなく、何でもめざせるんだよということを、周りの大人が伝えていく必要があると感じます」
その問題意識は、林教授自身の経験からも生まれている。ロイター通信東京支局で記者として働いたのち、幼い子ども2人を育てながら東京大学大学院社会学研究科に入学。ジャーナリズム・マスメディア研究者の道を突き進んできた。
「研究室でオムツを替えたり、学食で子どもを抱っこして食事したり、大変だった思い出はたくさんあります。男性ばかりの中に女性は私一人という状況も数え切れないほどで、マイノリティーの立場から意見を言うことの難しさも感じてきました。だからこそ、今の東京大にいる女性、性的マイノリティー、障がい者、外国人といった方々が気後れせず、やりたいことをやれるようにしっかり支援していきたいと思っています」
■地道なジェンダー教育で男子学生の意識も変える
「男性優位の大学」から脱却し、女性比率を向上させるため、東京大ではさまざまな施策が行われている。「女子高校生のための東京大学説明会」は06年から毎年開かれ、20年からはオンラインで開催。17年からは遠方から通学する女子学生に対して月3万円の家賃を補助。東京大学男女共同参画室が公式で発行する女子中高生向けのパンフレット『Perspectives』は女子学生の学生生活やキャリアについて取り上げる。