物語では、父が男手一つでサーリャと中学生の妹、小学生の弟の3人を育てているが、ある日、難民申請が不認定になったことを言い渡される。その時点で在留資格を失い、「仮放免」という状態になる。今後、許可なしでは居住区である埼玉県から出られなくなり、就労も禁じられる。さらに追い打ちをかけるように父が入管の施設に収容されてしまう。

 サーリャは大学進学の夢のために父に内緒でアルバイトをしており、そこで東京の高校に通う聡太と出会っていた。少しずつ心を通わせていた二人だが、「仮放免」を契機に、サーリャの当たり前の日常が崩れ去っていく。サーリャが直面する現実はあまりにも厳しくて、彼女一人が頑張ったところで変えようがなく、やるせない気持ちになる。

「作品にも出てくる、『大丈夫』『しょうがない』という言葉は、私がクルド人への取材でよく聞く言葉でした。絶対大丈夫じゃないのに、『大丈夫だよ』って明るく言うんです。また、『しょうがない』という言葉で、彼らの状況を片付けるべきではない。制度によってしょうがなくさせられているのはおかしいという怒りを感じて、強く心に残りました。聡太がサーリャに『しょうがなくない』と言うシーンがあるのですが、私が感じたことをまっすぐに言ってくれる存在が欲しいと思って、聡太に託しました」

 映画の公開と重なるように、日本はウクライナからの避難民の受け入れを行っている。もちろん彼らへの人道的支援は必要だが、一方で日本にはクルド人だけでなく、ミャンマーやアフリカ諸国から逃れてきた人たちがいるのも事実だ。

「本当は私たちのすぐそばにいる彼らのことを、いないことにしないでほしいという気持ちでこの作品を作りました。私たちにできることはまずは知ること。その積み重ねが社会の認知自体を少しずつ変えていくことになると信じています。いまこういうタイミングだからこそ、この映画が考えるきっかけになればと心から願っています」

(ライター・吉川明子)

かわわだ・えま 1991年生まれ、千葉県出身。2014年から「分福」所属。「マイスモールランド」が商業長編映画デビューとなる。映画では描かれていないサーリャの生い立ちや、母との別れなども描いた小説『マイスモールランド』(講談社)も執筆。

週刊朝日  2022年5月20日号