本作をドキュメンタリーではなく、17歳の女子高校生・サーリャの目線で描いたフィクションにしたのには理由がある。
「私は物語の力を信じていました。青春時代の葛藤や親との関係性は誰もが通ってきた道で、こうした物語であれば、視点を作品の内側に置いてもらいやすくなるんじゃないかと考えました。立場は違っても、在日クルド人の方々も同じ人間ですし、物語という形にするほうが、難民問題に無関心だった人に少しでも関心を持ってもらえるきっかけになるのではと思ったからです」
映画初出演で主人公のサーリャを演じた嵐莉菜さんは、日本で生まれ育ち、日本、ドイツ、イラン、イラク、ロシアのマルチルーツを持っているが、クルド人ではない。
「難民申請中の人が、劇映画に出演することで将来に不利益が生じる可能性があるため、メインキャストとしては出演していません。さまざまなルーツを持つ人に声をかけてオーディションを行いました。参加してくれた嵐さんに、『自分は何人だと思いますか?』というセンシティブな質問をしたところ、『自分のことを日本人だと言っていいのかわからないけれど、私は日本人って答えたい。でも、まわりの人はそう思ってくれない』と打ち明けてくれました。その気持ちを理解できる彼女なら、映画を一緒に作っていくことができると思いました」
また、夫が2年も入管に収容されたままで、サーリャに寄り添うクルド人女性を演じたサヘル・ローズさんはイラン出身で、彼女もまたクルド人ではない。
「サヘルさんはイランで幼少期に戦争孤児となり、養母と来日し、日本でもいじめなど壮絶な経験をされてきました。まずは脚本を読んでいただいて、サヘルさんがどう思われるかを聞いてみたくてオファーをしました。主人公のサーリャの愛称はさっちゃんなのですが、サヘルさんも同じ愛称ということもあり、『これは私の物語だ』と言ってくださいました」
川和田監督は、脚本に嵐さんや自分が学生時代に疎外感を感じた経験や、アイデンティティーの葛藤などを織り込み、ストーリーを作り上げた。
「だから、この作品は誰か一人の物語ではなく、いろんな断片を積み重ねています。この中には、私も、嵐さんも、サヘルさんも、お話を聞いたクルド人の方もいるんです」