■研修先の病院で震災を経験、覚悟を決める

 初期研修医として赴任した石巻赤十字病院(宮城県)では、東日本大震災を経験した。

地震発生直後から災害対応が始まり、研修医はトリアージの時、救急車の受け入れを担当しました。当時はあれほどの津波が来たとは実感できず、1週間後に自転車で石巻の街に行ったときに、道路がなくなり家や車が津波で流された様子を自分の目で見て、初めて状況が理解できました」

インドネシア・バリ島のサーフポイント、マデウィで波に乗る竹原由佳医師(本人提供)
インドネシア・バリ島のサーフポイント、マデウィで波に乗る竹原由佳医師(本人提供)

 震災後は市内全域でライフラインが停止していたことから、スタッフは数週間にわたり病院で寝泊まりし、救護や医療の対応を行った。

「担当していた患者さんと震災後に再会したときに『先生に助けてもらった命だから無駄にできないと思って、津波から逃げたんだよ。この先も助けてもらった命を大切にするから、先生も頑張ってね』と言われたんです。私は研修医だけれど、患者さんから見れば医師なんだと自覚しました。震災前は、自分は医師としてやっていけるか迷いがあったのですが、このときに覚悟が決まりました」

 後期研修からは「全身を診られる科がいい」と麻酔科を中心に経験を積み、浦添総合病院(沖縄県)などを経て、2016年から亀田総合病院の麻酔科に所属している。

「手術中に切迫した状況になると、手術室にいる全員が患者さんの命を救おうと団結します。チームワークがうまく働きいい結果が得られたとき、やりがいを感じますね」

 趣味のサーフィンは、仕事を続けるうえでも大きなモチベーションになっている。

「サーフィンの醍醐味は、自然と一体化できること。サーフィンによって心身をリセットできるので、日々新たな気持ちで仕事に向き合えるんです。医師とサーフィンには定年がないので、これからもずっと続けていきたいですね」

竹原由佳(たけはら・ゆか)医師

2010年群馬大学医学部卒。石巻赤十字病院、浦添総合病院、亀田総合病院、中頭病院を経て、16年亀田総合病院に麻酔科医師として着任。17年麻酔科医員、19年から麻酔科医長。日本麻酔科学会専門医、日本区域麻酔学会認定医。

(文/上野裕子)

※週刊朝日ムック『医者と医学部がわかる2022』から抜粋