そして、患者さんとの関係はあくまで対等です。西洋医学は人間の三つの側面、「からだ」「こころ」「いのち」のうち、からだに着目するため、人を機械のように扱いがちです。医者は壊れた機械をなおす修理工の立場であって、上から目線になりがちなのです。しかし、こころ、特にいのちに着目すれば、主体はあくまで患者さん本人です。医者ができるのは、自らを癒やしていく患者さんに戦友として寄り添うことでしかないのです。
診察が済んで「ありがとうございました」と患者さんが立ち上がります。私も立ち上がって「お大事に!」。すると患者さんが「先生もお大事に!」。そのとき、私は医者を60年間続けてきた喜びをかみしめます。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2022年5月20日号