壁を破るためには何が必要か。国公立大出身力士の先駆者で、46歳まで現役を務め、引退後は高砂部屋のマネジャーも務めた元三段目一ノ矢の松田哲博さん(琉球大学理学部物理学科卒、61)はこう話す。

「大学時代のことは全部忘れて、真っ白な気持ちで臨むことが大切」

 生活のすべてを相撲に捧げるプロの世界は、学生相撲とは大きく異なる。毎朝の稽古は、技術だけでなく、プロとしての体をつくることから始まる。学生相撲でトップクラスだった力士から、入門当初は体力的にきつくて稽古についていけなかったという声も聞いた。

 相撲部屋は集団生活。ちゃんこ番などの雑用があり、付け人として関取の世話もしなければならない。急激な環境の変化になじめず、力を発揮できずに土俵を去るケースも多い。須山は大学も親元から通っており、その点が心配される。

■物おじせずにプロ向き

 しかし、松田さんは、

「おそらくだいじょうぶだと思います」

 と語る。入門前に東大相撲部主催の壮行会で会って話をした時の印象から、「おおらかで物おじせず、プロ向きの性格」と感じたという。

 24歳での入門は年齢的には遅いが、相撲経験は4年足らず。伸びしろはまだまだある。今は細い体も、稽古して食べて寝る相撲部屋での生活を過ごせば、自然とプロの体になっていくだろう。

 相撲部に限らず、全国各地の大学の体育会やサークルは、コロナ禍で新入部員勧誘活動がままならず、危機に陥っているところも多いという。大学から相撲を始めた須山の活躍が、存続に向け奮戦する学生や関係者の励みになることにも期待したい。(相撲ライター・十枝慶二)

AERA 2022年5月23日号