一方で、眼瞼下垂かと思いきや、全く別の病気が潜んでいる場合もある。

 静岡県浜松市にある高田眼科院長の高田尚忠医師は、「眼瞼下垂に似た症状が出る病気として『眼瞼痙攣』と『重症筋無力症』があります」と話す。

「眼瞼痙攣は、自律神経の不調などが原因となって、脳が顔の筋肉に異常な信号を送り続けてしまい、勝手に目が閉じてしまう病気です。眼瞼下垂が目を開く“アクセルの筋肉”に異常が出るのに対し、眼瞼痙攣は目を閉じる“ブレーキの筋肉”が誤作動を起こしている状態だと言えます」

 特に更年期の女性に多く、一部の抗不安薬や睡眠薬をきっかけに発症するケースも少なくないという。

「眼瞼痙攣の場合は、ボトックス注射で筋肉の痙攣を止めることが第一選択となりますが、眼瞼下垂と誤診して手術すると余計に悪化してしまうこともあるので注意が必要です」

 また、重症筋無力症は、自己免疫の不調により筋肉が動きにくくなり、全身の筋力が低下する疾患だ。特に、目の周囲の筋肉に症状が強く表れるタイプを「眼筋型」と呼び、眼瞼下垂症を発症することがある。

 恐ろしいことに、劇症になると呼吸困難となり、命にかかわるケースもあるそうだ。

「つい先日、当院のメール相談でも『まぶたが急に下がった後、すぐに元に戻ったのですが眼瞼下垂でしょうか?』という問い合わせがありました。『それはおかしいので、すぐに神経内科を受診されてください』と返信したところ、やはり重症筋無力症と診断され、即日入院治療となったケースがありました。突然まぶたが下がったり、すぐに改善したりと、症状が安定しない場合は危険性が高いため特に注意が必要です」(高田医師)

 重症筋無力症の発症ピークは、男性が50~60代、女性は30~50代だという。

「重症筋無力症による眼瞼下垂の場合は、『アイスパックテスト』と言って、まぶたを氷で冷やすと目が開くという反応が見られるので、気になる方は試してみてください」

 このほかにも、脳梗塞や脳動脈瘤によって神経が麻痺することで急に片側のまぶたが下がったり、高血圧や糖尿病など、生活習慣病によって眼瞼下垂が引き起こされたりするケースもある。これらの原因は血液検査をすればわかるので、急に目の形が変わったり、違和感を覚えたりした場合は、早めに専門の医師に相談しよう。(ライター・澤田憲)

週刊朝日  2022年5月27日号

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