山口:ありがとうございます。
林:ところで、最初のご両親は、まだご健在なんですか。
山口:いや、コロナの前に父親も母親も亡くなりました。
林:私、どういうわけか、劇場のお手洗いに行くと山口祐一郎さんの情報をファンの人が教えてくれるんですよ(笑)。いつかも「山口さんは、お母さんがあまりにも素敵すぎて結婚なさらないんですよ」という話を聞きました。
山口:さっきも言ったように、父親も母親も5人でしょう。「社会通念上のシステムに拘束される現代人って何なんだろう」みたいなことが自動的に教育されちゃったんですよね。「形じゃないんじゃない?」みたいなことが。
林:なるほど……。でも、いろんなことが落ち着いて、いまから結婚してお子さんをつくるのもいいかもしれない。
山口:今年僕、66歳ですよ。いまさら子どもは……。弟も妹もいっぱいいますしね。僕ってプライベートがないんです。「どこそこの劇場にいる」って常に告知されて、そこに行くと僕がいるから、僕の知らない弟たち、妹たちが、「お兄さん」って言って来るんですよ。あるタイミングから僕、自分の実人生がなくなって。僕が過ごしてきたのは、全部舞台の上。死神とかヴァンパイアとか、人じゃない役を演じたこともたくさんあるわけですが、そんな虚構の世界が自分の人生なんです。自分の夢が現実になり、現実になった夢の中に生きているという感じでしょうか。
林:それはこういう容姿と才能に恵まれた人の運命ですね。
>>【前編】ミュージカル界の帝王・山口祐一郎を鼓舞させた“医療関係者からの手紙”
(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)
※週刊朝日 2022年5月27日号より抜粋