広瀬すず(ひろせ・すず)/1998年生まれ、俳優。主な出演作に「海街diary」(2015年)、「ちはやふる」「怒り」(ともに16年)、「一度死んでみた」(20年)など(撮影/写真映像部・東川哲也)
広瀬すず(ひろせ・すず)/1998年生まれ、俳優。主な出演作に「海街diary」(2015年)、「ちはやふる」「怒り」(ともに16年)、「一度死んでみた」(20年)など(撮影/写真映像部・東川哲也)
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 公開中の映画「流浪の月」(李相日監督)で女児誘拐事件の“被害者とされる女性”を演じた広瀬すずさん。俳優としてデビュー10周年を迎え、心境にも変化があったという。AERA 2022年5月23日号から。

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――ある誘拐事件の“元誘拐犯”と“被害女児”の出会いと再会を描いた映画「流浪の月」で、主人公で被害者の更紗(さらさ)を演じた。「怒り」以来、6年ぶりの李相日監督作出演になる。

広瀬すず(以下、広瀬):この世界に入ってから満たされたと感じたことはないんですが、「怒り」では思うようなお芝居ができなさすぎて、“悔しい”を通り越して虚しさを感じた初めての作品でした。お芝居のお仕事をやっていく上で必要な熱量をたくさんもらえた時間でしたし、ずっと忘れてはいけないと思える経験です。

 それ以来、もう一度李監督の映画に「また参加したい」とずっと思っていました。また呼んでいただけたのが素直にうれしかったです。楽しさよりも緊張感がある現場なので、日々身構えて臨みました。

「何が真実なのか」

――更紗と“元誘拐犯”の文(ふみ)(松坂桃李)は、いわゆる恋愛感情という言葉ではくくれない、強固な関係性で結ばれている。

広瀬:更紗と文の関係性はただ「好き」とか「一緒にいたい」という感情ではなく、まだ言葉として存在しないようなものだと思いました。どうやったら形にできるのか、最初は全く想像できないくらい難しかった。演じていくうちに、更紗にとっては一緒にいてくれる文といることが居心地がいいと思ったので、しがらみなく大胆にいようと思いました。桃李さんはエネルギーの溜め方が尋常ではなく、役者としてリスペクトすると同時に、安心感がすごくありました。

 一方で、更紗は恋人の亮くん(横浜流星)に対しては、言葉を交わしていたとしてもどこか狂気を感じている。さわったら血が出そうな棘(とげ)のある雰囲気を流星くんがすごくうまく作ってくれました。まわりの人にすごく助けられた現場でした。

 更紗と文はお互いの孤独を埋めるように一緒にいただけなのに、世間からは青年と女児というレッテルを貼られて注目されて、事件の後も生きづらくなってしまった。でも、ふたりは何も嘘はついてないんです。「何が真実なのか」という視点でこの映画を観ていただけたら、更紗と文のような思いをしている人にとっての希望につながると思っています。

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