しかし、患者さんと接する時間を制限して臨床実習を行うことはとても無理のあることです。例えば、私が専門としている皮膚科では、皮膚の病気を教科書で見ることはできますが、実際に触ってみるのは患者さんを目の前にしないとできません。触ってみて、軟らかいのか硬いのか、腫瘤(しゅりゅう)だとすれば動くのか動きにくいのかなど、触診から得られる情報もあり、すべてを総合して診断していきます。
医学部生時代に患者さんに触れることができなければ、医者になってから学ぶことになり、当然スタートは遅れます。臨床スキルも大事ですが、もっと大きな問題としては、医学部生として患者さんとコミュニケーションをとる時間がなくなることです。患者さんによっては、医者にはあまり多くのことを語らず医学生に思いを打ち明けることもあります。主治医へのちょっとした不満や「こんなお医者さんになってほしい」という思いを患者さんから聞けるのは医学生の特権です。
私も医学生時代に受け持ちの患者さんから、お昼ごはんにサンドイッチを買ってもらったことや、「良いお医者さんになってね」と声をかけられたことは今でも大事な思い出として心に残っています。医者になるにあたって、知識ももちろん大事ですが、患者さんの言葉や表情には教科書よりも多く学ぶものが詰まっていることがあります。
医学生のうちにじっくりと一人の患者さんと向き合う経験は大事なことです。リスクを乗り越え、臨床実習をしっかり行えるように変えていかなければならないと思っています。