内藤さんはタリバンの考え方に共鳴しているわけではない。だが、リベラルデモクラシーを一方的に押し付けても彼らが従わないことをよく知っている。「民主主義」や「人権」がどこでも歓迎されるわけではないのだ。
本書ではアフガニスタン独自の問題、イスラムの基礎知識、西欧との関係性など多彩なテーマをわかりやすい言葉で解説している。中学生なら十分理解でき、大人にもわかりやすい。タリバンに対する先入観を排除し、その上で多角的に物事を見ていく大切さが自然に心に染みていく仕掛けである。少なくとも「せっかく民主主義になる機会を与えたのにまたタリバン支配に戻るとは」という傲慢(ごうまん)な考え方には走らないだろう。
「学問的に新しい知見も入れてあります。嬉(うれ)しいのは同じ路線の著作『となりのイスラム』も含めて、高校・大学の入試や予備校の試験問題にたくさん取り上げていただいていること。同じ問題意識を持つ先生たちが多いのでしょう」
本書の帯には「水と油でも共に生きていくために」という言葉がある。確かにそれ以外、私たちに道はないのだ。(ライター・千葉望)
※AERA 2022年5月30日号