AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
この記事の写真をすべて見る『教えて! タリバンのこと 世界の見かたが変わる緊急講座』は、内藤正典さんの著書。日本では、欧米中心の視点から語られがちだったアフガニスタンとタリバンの問題。だがそれだけで本当にいいのだろうか?イスラムに詳しい著者がさまざまな疑問を提示しつつ「世界を別の角度から見ること」や「土台の異なる他者との対話」の大切さを訴える。オンライン講座をまとめた、わかりやすい一冊。内藤さんに、同書にかける思いを聞いた。
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ロシアによるウクライナ侵攻が始まってすぐ、内藤正典さん(65)に話を聞きたいと思った。内藤さんは常日頃Twitterやメルマガで、現代イスラム研究者・多文化共生論研究者としての知見に基づいた発言を続けている。ともすれば欧米に引き寄せられがちな日本の中で、シリアやトルコとも縁の深い内藤さんの視点は異色のものだ。ウクライナ侵攻では内藤さんが伝えるトルコの情報に厚みがあった。
「ロシアもウクライナもトルコも黒海に面する隣同士。トルコのテレビでは、ウクライナ侵攻が始まったその日に『マリウポリが激戦地になる』と言っていました。マリウポリは2014年にロシアが奪ったクリミアとロシアとの中継地点で、黒海から運び出す物資の輸送には絶対に必要な場所に位置しているからです。そしてトルコは黒海からの出口であるボスポラス海峡を管理する国なのです」
大帝国だったトルコには欧州やロシアを冷徹に観察する力がある。NATOのメンバーながらずっと旧ソ連・ロシアとの往来も続けてきた。どこの同盟にも頼らず排除もしない覚悟があり、今回はウクライナとロシアの仲介役を務めるという老練さを発揮している。
「それに比べたらアメリカは単純の極み。中東の人たちは『アメリカが手を突っ込んできたらろくなことにならない』という見方で一致しています。イラクもそう、アフガニスタンもそう。特にアフガニスタンでは米軍は負けて撤退したのに、欧米メディアはそう言わないですね。タリバンは古い兵器しかなかったけれど最新型兵器を持っている欧米に負けなかった。それはなぜなのか考えなくてはなりません」