灘中学で行われた「乳幼児の子育て」についての授業風景(撮影・松岡瑛理)
灘中学で行われた「乳幼児の子育て」についての授業風景(撮影・松岡瑛理)

 講師が自身の出産・子育て体験について話したのち、生徒もほ乳瓶でミルクを与えたり、抱っこヒモを使って抱っこしたりする。18年からは高校3年の授業内でも同じプログラムを行っている。

 授業を通じて、次第に赤ちゃんに興味津々となる生徒の様子に手応えを感じている。その一方で、女性を講師に招くことで「育児は女性の仕事」という固定観念を強めるのではないかという懸念もあり、自身の育児体験についても授業内で触れるようになった。

「授業には知的な要素と、情動的な要素の両方が必要だと思っています」

 と、片田さんは話す。

「育児について、数字のデータや『男女平等のため』などの正論を伝えるだけでは、情報は右から左へ流れて行きやすい。身近な存在である教師が自分のエピソードも交えながら話すことで、『面白そう』『やるべき』と思ってもらいやすくなる。『やってみたい』という意欲が自然に起こるようになれば、それが一番だと思っています」

 5月には、他校の教員らとともにジェンダー教育についての勉強会も立ち上げた。オンラインでお互いの授業内容や情報を共有したり、意見交換を重ねたりしていく予定という。

 仕事だけではなく、結婚や出産、育児など、人生にかかわるイベントを包括的に扱う「ライフキャリア教育」へのニーズは、社会全体で見ても強まっている。

 父親の支援活動を行うNPO法人ファザーリング・ジャパンは21年10月から12月にかけて首都圏の高校生や大学生343人を対象に「子育て講義のニーズ」をテーマとした調査を行った。その結果、「結婚・出産・子育てなどについて学べる講座・研修があれば受講を望みますか?」という質問に、約71%が「はい」と回答した。「子どもが産まれたら育児休業を取得したいですか?」という質問には約83%が「はい」と答えている。

「仕事か生活か」ではなく、「仕事も生活も」大切にしたい──。これからの社会を担う若者たちの願いを、教育現場はどこまで汲み取ることができるのか、注目される。

(本誌・松岡瑛理)

※週刊朝日オンライン限定記事