■感情の言語化が「気持ちいい」

 恋バナ(恋愛に関する話)収集ユニット「桃山商事」代表で文筆業の清田隆之氏は、これまで多くの男女からさまざまな悩みを聞いてきた。

「悩み相談に来るのは圧倒的に女性が多いですが、それでも近年は自分から悩みを打ち明けにくる男性が増えています。もちろん切実さは伝わりますが、それでもやはり男性は心のモヤモヤを吐露するのが得意ではない傾向を感じます。男は弱音を吐くなとか、我慢しろとか言われ続け、感情表現が苦手なのかもしれません。女性たちからも、男の考えていることがわからないという声が少なくありません」

 そんな「感情の言語化」や「弱さの開示」が苦手な男性たちを取材して、吐露しにくい身の上話を聞き取ったのが著書『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』だ。同書に登場するある男性は清田氏の取材に「自分が感じていることを素直に言語化することが気持ちいい」と話したという。

「男女共同参画センターの講座で男性たちの語り合いイベントを実施したことがあります。自助グループや哲学対話を参考に、語る人は言いっぱなし、聞く人は聞きっぱなしといったルールを共有した上で語り合いの時間を設けました。それを3人1組でやったらすごく盛り上がって、自主的に延長戦をやる人たちも出たほどでした。孤立化した社会の中で、会話や対話に飢えているという可能性はあるかもしれません」

 今回の取材の過程で、「男らしさ」で悩む30代男性のBさんに出会った。「会社の先輩との付き合いがつらい」というのだ。

「コロナ禍では仕事の後の一杯みたいな付き合いはなかったけど、緊急事態宣言が明けたとたん強制的に飲みに連れていかれ、飲まされ、揚げ句は『キャバクラ行くぞ』。断るたびに『男の作法を教えてやっているのに』と怒る。強く断れない自分が許せない」(Bさん)

 Bさんに男性専用の電話相談窓口があることを伝えると、Bさんはこう言った。

「なんか今、取材に応えて話しただけなのに、少し楽になりました」

 電話相談に限らず、悩みを誰かに告白するだけで何らかの効果があるのかもしれない。(本誌・鈴木裕也)

週刊朝日  2022年6月3日号

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