かな・ともこ/1971年、東京生まれ。ドキュメンタリー映画監督。19歳で是枝裕和のドキュメンタリーに出演し映像の世界へ。NHKを経て独立。2007年、『川べりのふたり』がサンダンスNHK国際映像作家賞。ライフワークは環境問題。趣味はダイビングと歌舞伎鑑賞。フルブライト奨学金を得て、22年1月からニューヨークのコロンビア大学の客員研究員として留学中。1児の母(写真/筆者提供)
かな・ともこ/1971年、東京生まれ。ドキュメンタリー映画監督。19歳で是枝裕和のドキュメンタリーに出演し映像の世界へ。NHKを経て独立。2007年、『川べりのふたり』がサンダンスNHK国際映像作家賞。ライフワークは環境問題。趣味はダイビングと歌舞伎鑑賞。フルブライト奨学金を得て、22年1月からニューヨークのコロンビア大学の客員研究員として留学中。1児の母(写真/筆者提供)

 そんな私を助けてくれるのは友だちだ。最初に親しくなったのは30代のしおりちゃん。同じ語学クラスの生徒で、授業の後にランチをするようになった。彼女はアメリカ人と結婚して現地に住んでいる。マスクで英語が聞き取れない悩みを共有できて心は楽になった。友だちって大切だ。たとえ何歳になっても。

 彼女と毎日のようにランチに行くようになって実感したのは、現金が使えない店が増えていることだ。もともとアメリカはカード社会だが、感染対策で現金の扱いをやめた店が増えた。『No Cash!』と冷たい回答のお店では、しおりちゃんがカードやアプリで払い、私が現金で割り勘分を彼女に払う。いつしか私は彼女から「カナさん銀行」と呼ばれている。

 彼女は普段、最低限の現金しか必要としない。それが私の割り勘分の10~20ドルで足りるので、ATMに行かなくなった。だから「カナさん銀行」なのだそうだ(笑)。

「現金って普段いります?」

 と、しおりちゃんから真顔で聞かれたが、私はまだ現金がないと不安だ。ニューヨークでは飲食店以外でも、個人のお金のやり取りはアプリだ。例えば、息子の小学校の保護者会会費などは、アプリでの支払いを指示されてとても困った。朝から晩まで1円も現金を使わない日も多い。

 ある晩、別のコロンビア大学の友だちと食事をしたとき、彼女は私の持っていた長財布を見てつぶやいた。

「久しぶりに財布を見た。もう誰も使っていない」

 現金を使わないと、お財布もいらないのか。まるで自分が骨董(こっとう)品になったような気分だ。最近は念のためお店で聞くようにしている。

「現金を使ってもいいですか?」

 50歳の子連れ留学。戸惑いながら、私のニューヨーク生活は続いてゆく。

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