ただ、コロナが終わったのかというとそうではない。バスや地下鉄には「MASK REQURED」(マスクが必要)と掲示され、多くの人がそれに従っている。コロンビア大学の前には「FREE COVID―19 TESTING」(新型コロナウイルス無料検査)のテントがいくつもある(5月後半から検査の一部は有料)。予約なしで抗原検査とPCR検査ができる。試しにやってみると、本当に10分で済んだ。実はこのテントはマンハッタン中に無数にあり、いつでも誰でも気軽に検査ができる。羽田空港で予約の上、3万円も払って検査したのが遠くの星の話のようだ。
ちなみに大学内では、教授や学生は今もマスクをしている。これはコロナで学内が閉鎖された2年間の苦い記憶からきているそうだ。
「コロナでまた大学が閉鎖され、授業がリモートになるのは学生にとって最悪だ。だからマスクは必要」
と、私がとっている授業のリサ・デール教授は言った。コロンビア大学の正規の授業料は年間600万~1千万円。高額な学費にもかかわらず、リモートになったことで大切な学びの機会を失った学生も多い。つい先日までは、キャンパスに入るためには大学独自のコロナ証明アプリを毎日見せなければならなかった。この2年はひどい状況だったのだ。だから街中でマスクが解除された後も、学内ではマスクが続いている。
実際、若い学生たちの間では今も感染者が出ている。リサ教授も先日コロナにかかり、急きょリモート授業になった。学内のマスクの継続はありがたい。もし、NBAの会場のような授業だったらと考えると、50歳で高血圧の私は命の危機を感じてしまう。
ただし、マスクのせいで困っていることがある。授業の聞き取りだ。ニューヨーカーは早口でまくしたてる。専門用語を交えた議論が続く教室で、マスクで声がこもって聞こえないのだ。immigration(移民)とmitigation(緩和)のようにマスクがなければまちがえない単語を聞き間違えて議論の全体像を見失い、私は毎日落ちこぼれ、深い迷宮に迷い込んでいる。