ニューヨークで行われた旧統一教会の国際合同結婚式/1982年
ニューヨークで行われた旧統一教会の国際合同結婚式/1982年
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 安倍晋三元首相銃撃事件を受け、注目を集めている旧統一教会のトラブル。なぜ防ぐことができなかったのか。AERA 2022年8月1日号の記事から紹介する。

【山上徹也容疑者をめぐる主な動きはこちら】

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 7月8日、安倍晋三元首相(67)が奈良市で銃で撃たれた。殺人容疑で送検された無職の山上徹也容疑者(41)は、母親が旧統一教会に総額1億円以上を献金し、自己破産していた。

 朝日新聞によると、奈良県警の調べに「生活が苦しくなり、恨んでいた」と供述。旧統一教会の友好団体・天宙平和連合(UPF)主催の行事に安倍元首相がメッセージを送っていたことなどから、つながりがあると考えて襲撃したとみられている。

 旧統一教会日本教会の田中富広会長は11日の会見で「(安倍元首相は)会員として登録されたことも、顧問になったこともない。2009年のコンプライアンス宣言以降はトラブルはない」

 などと話していた。だが、数日後に出された声明文には、

「トラブルがゼロになったという意味で言ったものではありません。当法人を相手取った民事訴訟の数は着実に減少している。山上家庭を当法人が十分に支えきれなかった」

 と回答している。

「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の紀藤正樹弁護士は、09年以降はもちろんのこと、何十年も前からくすぶっていた問題を防ぐことができなかった事実は重いとして、こう指摘する。

「オウム真理教の事件の検証や調査が、国レベルで行われなかったことが今回の事件につながっている」

世界的にも稀有なテロ

 1995年、オウム真理教による地下鉄サリン事件が起き、死者14人、重軽傷者6千人以上が出た。紀藤弁護士は言う。

「カルト団体によるテロは世界的にも稀有(けう)なこと。だが、警察による有罪を前提とした捜査が行われただけで、膨大な資料の一部しか使われていない。事件に至った背景事情や再発防止策などの検討がなかった」

 米国ではオウム事件後、連邦議会で大量破壊兵器によるテロに備える具体的な対策が議論されたこととは対照的だ。

 オウム真理教を取材してきたジャーナリストの江川紹子さんはオウム事件後、政治家に会うたびに学校教育の中でカルトに関して子どもたちに教える機会を作るよう訴えてきた。だが、実現せず議論も深まらないまま、18年、松本智津夫(麻原彰晃)元代表の死刑が執行されると、

「カルト問題は一件落着したかのような安堵(あんど)感が社会全体に広がったのを感じた。でも、終わってはいない」(江川さん)

 江川さんは自分にできることは何かと考え、20年から神奈川大学でカルト問題を教え始めた。

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