「地元の方に多く対局を見ていただいた中でこういった結果を出せたことは、うれしく思っています」
「20代になるということで、これからやっぱり非常に大事な時期だと思っているので、しっかり取り組んでいきたいと思っています」
ほとんどの棋士は、20代半ばから30代半ばで最盛期を迎える。20歳になったばかりの藤井がここからさらにどれほど強くなれるのか。想像すると恐ろしいばかりだ。
目の回るようなハードスケジュールは歴代のトップクラスにとっては宿命で、藤井もまた例外ではない。藤井は休む間もなく7月20、21日、王位戦七番勝負第3局で豊島将之九段(32)と対戦した。藤井は終盤で飛車を捨てる見事な決め手を見せて、20代初戦も白星で飾った。王位戦はこれで2勝1敗。防衛まであと2勝だ。
藤井は今年度、王座戦ではすでに敗退している。しかし五冠すべてを防衛し、勝ち残っている棋王戦まで制すれば最大六冠にまで達する。また初参加のA級順位戦で名人挑戦権を得て、次年度の名人戦七番勝負を制すれば七冠だ。20歳での名人就位もまた、史上最年少となる。
藤井が10代のうちに稼いだ対局料・賞金は、公表されているだけで1億数千万円。イベントやCM出演などの副収入を合わせると、10代としては日本屈指の稼ぎ手だろう。八大タイトルのうち過半数の五冠を制している現在、年収1億円を大きく超えるのは、ほぼ確実。しかしそうした点についても、藤井は興味がなさそうだ。
自作マシンへの投資か
稼いだ賞金の使い道としてまず想像できるのは、自作マシンへの投資だろうか。コンピューター将棋ソフトによる研究が常識となった現在、環境がさらに充実するに越したことはない。
またタイトル戦で着る和服などはこの先、いくらあっても困ることはない。藤井は初めての棋聖戦の際、師匠の杉本八段から贈られた和服を着て臨んだ。師匠が負担した総額は「安い車1台分」ほどの額にもなるというから、ケーキどころではない。
藤井は周囲の期待に見事に応え、東海地方に悲願のタイトルを持ち帰った。師匠や地元の人々に返した恩はすでに、プライスレスとも言えそうだ。(ライター・松本博文)
※AERA 2022年8月1日号より抜粋