北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 裁判は、女性に同意があったのかが問われるものになった。結果的には、女性が恐怖のあまり固まってしまい声を出せなかったことを理由に、「大声で助けを呼ばなかった」「逃げようとしなかった」から同意があった、という男性の主張が通ることになってしまった。

 裁判で男性は冗舌で、時には裁判官から注意を受けるほどの主張の強さだったという。今までも何人かの女性と性交してきたが問題はなかったということを語り、女性が激しい抵抗をしなかったことや、身体的な反応があったことも「同意」の根拠にした。これまでも男性が「同意」を勘違いした、というようなことを理由に無罪判決が出たことはあるが、この裁判では、そもそも女性の「同意はなかった」という証言を信用できない、とまで踏み込んでしまった。

 いったい、初対面の男性にいきなり性器を損傷するまでの暴行を受け、そしてその後にPTSDに苦しみ、それでも長くつらい裁判を引き受ける女性側に、いったい「ウソ」をつく理由がどこにあるというのだろう。男性は女性からすれば事実とは違う「靴の色」を、堂々と裁判で語っていたという。その堂々とした態度が、「信頼できる振る舞い」と裁判員たちに受け取られていく雰囲気は傍聴席側からでも伝わってきたという。

 今回の無罪判決は、富山地裁で行われた裁判員裁判では初めての「無罪判決」だったという。そのため、地元では大きな話題になった。裁判員の構成を聞いて驚いた。6人中5人が男性で、1人は高齢の女性だったという。5人中3人は、被告や原告と同世代に見える若者だったという。初対面の女性が寝ているところに覆いかぶさり、激しい痛みを伴う暴行をすることを「同意のあるセックス」だと主張する男性側の理屈が通ってしまった背景に、裁判員の年齢や性別の偏りはないと言い切れるだろうか。堂々と語る男の声は信頼できる、あいまいに語る女の声は信頼できない。そもそもそんな女性への偏見が、判決に影響していないと言い切ることはできるだろうか。

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「同意」とはどういうことか