韓国政治も男女対立をうまく解消できていない。金大中大統領は女性省(現・女性家族省)を新設し、女性の社会進出を促した。人権や女性問題などを扱う市民団体への補助金も支援し、女性の社会進出が飛躍的に伸びたとされる。韓国外交省では毎年の外交官試験で女性の合格者が7割を占める。同省の課長職の45%は女性で、「5年後には6割になる」(同省幹部)とされる。

 あまりに急速に女性の社会進出が進んだため、若い男性を中心に「男が軍隊に行っている間、女は就職活動をしている」という不満が生まれた。現代の韓国では「イデナム=20代(イーシプデ)男性(ナムジャ)の意味=とイデヨ=20代女性の意味=との対立」と位置づけられている。

 3月9日に行われた韓国大統領選では、保守系の尹錫悦(ユンソンニョル)陣営が20代男性をターゲットに票の掘り起こし作戦を展開。女性家族省の廃止を公約に掲げた。これに危機感を抱いたイデヨがSNSなどで対立する李在明(イジェミョン)候補への支持活動を展開した。尹氏が最終的に大統領選に勝利したが、李氏との得票差はわずかに0.73ポイントだった。

 韓国世論調査会社リアルメーターが5月16日に発表した尹錫悦大統領の支持率は51.2%。うち、男性は53%、女性は49.5%だった。尹政権は60代以上と20代の男性に強い支持を得ているとされる。

 保守陣営の学者はBTSに対する兵役特例問題について「大統領というよりも、側近たちが支持率への影響を考えながら方針を決めるだろう」と語る。また、尹大統領は検事出身だ。側近の一人はこう話す。

「公正と正義を大事に考える人。簡単に特例を認めることには抵抗を感じるかもしれない」

 もちろん、韓国の政治家はこれまで散々、BTSから恩恵を受けてきた。BTSと文在寅大統領(当時)は2021年9月、米ABCのテレビ番組に出演した。文政権はこの直前、BTSを「未来世代と文化のための大統領特使」に任命。BTSは米ニューヨークの国連総会特別イベントで記念演説を行っていた。文氏は番組で「BTSは若者の代表で、幅広い共感を得ている。国連の事務局長や私が何百回呼びかけるより、はるかに効果的だ」と語っていた。

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