テリー以外の外国人レスラーは、ファンサービスが悪いとは言わないけど、タイガー・ジェット・シンやアブドーラ・ザ・ブッチャーはヒールのイメージを大切にしていたから、ファンとの触れ合いはほとんどなかったよね。その代わり、地方の有力なプロモーターや興行主には、ちゃんとサービスしていたよ。アメリカではプロモーターやボスには敬意を持って接するということを徹底している。それに、日本のプロモーターは“ご祝儀”をくれるしね。そういうところに彼らは目先が利くんだよ。
ボスである馬場さんには、来日するたびにいつも葉巻をお土産で持ってきていたりね。一度、アメリカに行くときに馬場さんから「ブッチャーがいつも持って来る葉巻を買って来てくれ」と頼まれたんだけど、それが一本100ドル以上してびっくりしたよ! ブッチャーたちはボスの胸三寸でどう使われるか決まるから、付け届けも毎回ちゃんとしているんだ。
馬場さんも思わず俺に「天龍、気遣いもセンスだよ。俺にゴマすってくる奴は、やっぱりかわいいんだよ」なんて言っちゃうくらいだもの。俺も相撲の縦社会で育ったから、いろいろと気が付くところがあったからかわいがられたんだろう。中には「天龍の野郎、馬場さんにゴマすってうまくやりやがって」と言うやつもいただろう。でもその結果、ファイトマネーが上がるのも早かったからね。ゴマをするのにもセンスがいるんだよ(笑)。
プロレスはいろいろな形でファンサービスができるけど、相撲はその機会があまりないんだよね。後援者を招待して部屋でちゃんこを振る舞ったり、千秋楽のパーティーに呼んだりするのが一番のファンサービスかな。それでも後援者相手だし、一般のファンを相手にするのはなかなか難しい。
相撲時代の若いころ、錦糸町で飲んだ帰りに知らないおっさんから「相撲取りだろ? どこに行くの? 俺と一緒に酒でも付き合ってくれ」と言われてね。若い俺は「これが先輩たちがよく言う“タニマチ”か!?」と思ってノコノコついて行ったんだよね。当時の俺は“タニマチ”というご馳走してくれる人が、その辺をウロウロしていると思っていたんだ。