また、4回転の着氷直後にトリプルアクセルを跳べるのは、やはり4回転アクセルを練習してきたことでアクセルそのものの精度が高まっている証拠。ショーの公式パンフレットでも4回転アクセルについて「まだまだ目指すべき存在。何よりも力を注ぎきれるもの。怖さも痛みも辛さもふくめて、生きていることを体感できる」とコメントし、挑戦を続ける意欲を見せている。さらに羽生が4回転アクセルの扉を開けたことで、海外の若手もこの壁に挑み始めた。アクセルのライバルが現れることで、羽生の心に火がつくことも期待されている。
一方、羽生以外のスケーターたちも魅力的なプログラムで感動を届けた。プロに転向したばかりの田中は二つの新ナンバーを披露。スガシカオの「Progress」では、「あと一歩だけ、前に進もう」の歌詞に乗って、気持ちを前に押し出すように伸びのあるスケーティングを見せた。スガシカオは「スケーターの皆さんの美しさ、力強さ、迫力、感動のあまり曲の歌詞が飛んでしまいそうになります」と感慨深そうに話した。
■「ロマンスの神様」熱唱
また、広瀬香美もライブに参加し、「君にセレナーデ」で坂本が、「ゲレンデがとけるほど恋したい」で1月の四大陸選手権覇者の三原舞依(22)が、それぞれ元気な滑りでファンにパワーを送った。フィナーレでは広瀬が「ロマンスの神様」を熱唱し、“冬の女王”としてスキーだけでなくスケーターたちの心を熱く溶かした。
世界から唯一無二の才能が集結し、夢のようなひとときを紡ぎ出す一夜。羽生は最後に「ありがとうございましたーーっ」と叫び、ファンへ、そしてスケートへの愛を伝えた。
(ライター・野口美恵)
※AERA 2022年6月13日号