社会心理学者で元東洋大学教授の安藤清志さんも、コミュニケーションでは相手に対する謙虚さが大切になると話す。
そもそも、コミュニケーションは、内容を伝えるのは当然のこととして、それを受け手の側がどの程度、理解して納得し、実際の行動に移してくれるかが大事になる。話し手が聞き手に対して目上か同格か、親しい人か疎遠な人かというように、誰が話すのか、また受け手の心理状態でも違ってくる。
中高年の上司は仕事の能力や知識が部下に対して圧倒的に勝っていることが多い。「相手が自分をどう見ているのかを意識し、ちょっと引いて考えてみるといい」と安藤さんはアドバイスする。
また、相手に関心を持つことも大切と、安藤さんはみている。相手のことをよく知ること。会社などの組織では、普段から相手との人間関係を良好にしておく「下準備」が大切になり、特定の場面でお願いをするときにもコミュニケーションがうまくいくという。
仕事の能力や知識で勝る上司が部下に対し、コミュニケーションをうまくするのに、優しさを見せることもいい。「メッセージの受け手に対し、単に仕事ができる人というだけでなく、人間力の優れた人と伝わる」と安藤さんは話す。
さらに、安藤さんは「自分が隠していた弱さがあることを話すことができるか。弱さを示すことでうまくいくこともある」という。指導的な立場にある人は強さだけでなく、弱さや優しさという側面を見せることで、相手から共感を得やすくなる。
たとえば、「社長が部下に対し、自分も新人のころはこんなことがあったと、隠さず話すことは決して不利にならない」と安藤さんは話す。むしろ、説得力が増すだろうともみている。「そうなのだ」と相手が共感してくれたとたん、受け入れられて仲間となり、一体になるという。
安藤さんは「そういうことを意識しながら、共通点を探るといい」と話し、相手から質問を受けたりして、コミュニケーションが活発になるとみている。そのためにも、相手がどんなことに関心があるのか、敏感になっておく必要がある。
※週刊朝日 2022年6月17日号より抜粋