岸田文雄首相
岸田文雄首相

 岸田氏は、それは無理と諦めた。当初目標の23年度1000円なら、2年連続4%引き上げで何とかなるのだが、それすらも書かなかった。これでは、16年度の骨太の方針よりも後退したことになる。そこで、「できる限り早期に」という言葉を加えてお茶を濁した。本来なら、1000円どころか1500円を目指してもおかしくないのに、これが岸田氏の「新しい資本主義」における「分配」への「本気度」なのである。

 もう一つ、重要なことを指摘しておこう。安倍政権直前の12年度の最低賃金は749円だったが、これは1ドル80円時代のことだから、ドル換算で9.4ドルだった。一方、仮に今すぐ目標である1000円を達成したとしても、現在の為替レート1ドル130円で換算すると7.7ドルだ。アベノミクスから新しい資本主義に入り、最低賃金は、国際的に見ると2割近く下がることになる。

 こんな目標しか掲げられないなら「骨太の方針」ではなく、国民が「やせ細る方針」と名称変更した方がよい。自民党政権が続く限り、庶民の生活は貧しくなるばかり。来たる参議院選挙で、国民はこの流れを変えるための投票を行うべきだ。

週刊朝日  2022年6月24日号から

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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