岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」の意味が分からない。
この言葉は、6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(いわゆる骨太の方針)にも大きく掲げられたが、これを読んでもわかる人はほとんどいないだろう。
この骨太の方針で、「新しい資本主義」の1丁目1番地に掲げられたのが「人への投資と分配」だ。そのうち、人への「投資」については、3年間で4000億円使うと言うが、年平均では1333億円。防衛費を5兆円から10兆円にという話が進んでいるのに比べると、あまりに規模が小さい。あの日本経済新聞でさえ、8日の1面トップで「人への投資、世界水準遠く骨太方針決定」という見出しをつけ、落胆ぶりを露わにした。
一方、人への「分配」はどうか。「資産所得倍増」と掲げたので、我々の資産を「倍増」してくれそうなのだが、よく考えると、その元手がない人はどうなるのかがさっぱり見えない。唯一低所得層一般に確実にメリットがありそうなテーマが最低賃金の引き上げだ。そこで、骨太の方針に掲げられた最低賃金1000円という目標について、少し掘り下げてみよう。
実は、最低賃金の目標は、安倍晋三政権以来ずっと1000円のままだ。2016年度の骨太の方針では、年率3%程度引き上げて1000円を目指すとしていた。15年度の最低賃金798円をベースに毎年3%増やすと、23年度には1000円を超える計算だった。
この間、19年度の骨太の方針では、単に1000円を目指すのではなく、「より早期に」という言葉を書き加えて、目標達成の前倒しのニュアンスを出したが、1000円達成の年限は書いていない。
16年度の骨太の方針通りに進んでいれば、23年度、すなわち来年度には1000円に達するはずだから、「分配」を強調する岸田政権の骨太の方針では、本来は1年くらい前倒しして、今年22年度の改定で1000円達成と言ってもおかしくないはずだ。しかし、実際には、21年度が930円なので、7.5%の引き上げが必要になる。