ウクライナ東部でロシア軍が攻勢をかけている。なぜか。今後どうなるのか。ロシアや旧ソ連諸国の政治に詳しい慶應義塾大学の大串敦教授に聞いた。AERA 2022年6月20日号の記事を紹介する。
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ロシア軍がウクライナ東部ドンバス地方の完全支配を目指している。分離派武装勢力の「人民共和国」がそれぞれあるルハンスク、ドネツクの両州だ。6月7日時点でルハンスク州の97%を掌握したと主張。ロイター通信によると、ウクライナのゼレンスキー大統領が「ドンバスの命運が決まる」とする同州の都市セベロドネツクの大部分もロシア軍が支配した。
ウクライナ軍は首都キーウ周辺からロシア軍を撤退させるなど一時は反撃も目立ったが、現状はどうなのか。慶應義塾大学の大串敦教授は戦局の転換となった一つとして、南東部の都市マリウポリで抵抗していたウクライナ内務省軍の「アゾフ連隊」が5月16日に降伏したことを挙げる。
「アゾフ連隊は2014年の政変でマリウポリに侵攻しようとした東部の分離派武装勢力を撃退した、ある種の英雄。彼らが陥落したことは、戦況への影響とあわせて『象徴的な意味』をもってしまったと思います」
「マリウポリを取られたことで地理的にアゾフ海が完全に『ロシアの内海』になりました。さらに、ロシアはマリウポリに張り付けていた軍を北上させることができるので、兵の配置面でもロシアにとって戦況を好転させる要素になったでしょう」
米国はウクライナの要請を受けて、6月1日に高機動ロケット砲システム「ハイマース」の提供を決めた。ただし、射程が最大300キロのところを70キロに制限。「ロシア領内への攻撃に使用しない」ことをウクライナに確約させた。
「ロシアに届くと、ロシアにとっては『自国の領土への攻撃』となり、核抑止の対象になる。現在の『特別軍事作戦』から『戦争』となり、総動員令を出すことも可能になる。そんなエスカレーションは望んでいない、という米国側からのメッセージだと思います」