日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「味覚異常と倦怠感で検査してわかったこと」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
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私ごとで恐縮ですが、今回は5月末に自分自身の身体に起きた出来事を共有させていただきたいと思います。
急に、ピリピリと感じる舌の痛みと、口の中にずっと残る苦味を感じるようになりました。「気のせいかな」と思い、数日様子を見ていたのですが、一向に良くならず、ピリピリとする舌の痛みは強くなり、苦味もはっきりと感じるようになりました。舌の違和感や味覚の異常を自覚してから4日目には、ひどい倦怠感を自覚し、寝込んでしまいました。
熱はなく風邪症状もなかったものの、味覚異常があったことから、「もしかするとコロナかもしれない」と思い、自宅にあった新型コロナウイルス迅速抗原検査を実施するも、結果は陰性。翌日、味覚異常をきたす疾患である亜鉛欠乏症の可能性を考慮し、勤務先のクリニックで採血検査を行ってもらったところ、亜鉛が正常値より低値であることがわかり、「亜鉛欠乏症」と診断されたのでした。
亜鉛欠乏には亜鉛の補充が欠かせません。亜鉛欠乏であると判明してから内服による亜鉛補充を行ったところ、3日後にはピリピリと感じていた舌の痛みは消え、口の中にずっと残る苦味も次第に感じなくなりました。舌の痛みや苦味を感じてからは食欲が落ちていたのですが、苦味を感じることがなくなった今は食欲も戻り、味覚の大切さを改めて実感しています。
味覚や嗅覚の異常といえば、新型コロナウイルス感染症を思い出される方も多いのではないでしょうか。冬から春にかけて流行したオミクロン株では、味覚や嗅覚を訴える方は少なかったのですが、デルタ株の感染が拡大した昨年の夏は、「味覚や嗅覚がなくなった」「臭いがわからない」「味がしない」と訴える方がとても多く、味覚や嗅覚の消失や異常を訴える多くの方でコロナ陽性を認めました。