フィリピン大統領選で当選したマルコス元大統領の長男、フェルディナンド・マルコス氏。「ボンボン」の愛称で呼ばれる
フィリピン大統領選で当選したマルコス元大統領の長男、フェルディナンド・マルコス氏。「ボンボン」の愛称で呼ばれる
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 5月9日に行われたフィリピンの正副大統領選。大統領に当選したのは、独裁者だったマルコス元大統領の長男のフェルディナンド・マルコス氏(64)。愛称・ボンボン。副大統領はボンボンとペアを組んだドゥテルテ大統領の長女でミンダナオ島ダバオ市長のサラ氏(43)が当選した。

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 フィリピン国外では「なぜフィリピン人はかつて国外に追放した独裁者の息子をまた大統領に選ぶのか」といった疑問が膨らんでいるようだが、最大の勝因ははっきりしている。

 選挙では、リベラル派のレニ・ロブレド副大統領ら主要候補らのなかでただひとり、ボンボン氏は国民の間でなお人気抜群のドゥテルテ大統領の政策継承を公言。ドゥテルテ大統領の後継候補というイメージをつくり出したことだ。

 近年のフィリピン国民を最も悩ませてきたのは、年々悪化する治安問題だった。

 日本の通信社に勤めるフィリピン人の記者が7年ほど前、ため息交じりにいっていた言葉を思い出す。

「この国ではもう不安で暮らせない。自宅のすぐ近くの家にも武装した強盗団が入り、貴重品を奪っていった。いっそアメリカにいる親戚を頼って移住しようかと思っている」

 ノイノイ・アキノ前政権下の2014年の警察統計によると、犯罪認知件数は70万8350件で、うち殺人事件は年1万8510件だった。これがドゥテルテ政権下の18年統計では、犯罪認知件数は47万3068件に減り、殺人事件の件数は9017件と14年比で半減した。強盗など凶悪犯罪全体も大幅に減っている。20年以降は、コロナ禍による外出制限などもあり、別要因と考えるべきながら、凶悪犯罪はさらに減り続けている。

 治安改善の最大の理由は、ドゥテルテ政権が掲げた覚醒剤を中心とした違法薬物撲滅政策であったことは間違いない。

 この政策を巡っては、ドゥテルテ大統領が「抵抗する麻薬密売人らは殺せ」と公言してきたことから、国際人権団体、国連人権委員会、国際刑事裁判所(ICC)、さらには国内の人権派団体からも「無実の貧しい人々も多数殺されている」と批判を浴びてきた。

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「国民はドゥテルテ大統領に『ギャップ萌え』した」