フィリピンの副大統領選で当選したドゥテルテ大統領の長女サラ氏
フィリピンの副大統領選で当選したドゥテルテ大統領の長女サラ氏

 この「麻薬戦争」で殺された人数は、警察発表によると、16年6月のドゥテルテ政権発足から22年2月末までに6235人。一方、国際人権団体の推計では、その数は1万~1万5千ともみられている。

 しかし、ドゥテルテ大統領の支持率は過去6年間、80%前後と極めて高い水準で推移してきた。そして、国民が支持する理由の筆頭に挙げ続けてきたのが「違法薬物撲滅政策」であり、その結果としての治安改善だった。ドゥテルテ政権は警察官の初任給を2倍の3万ペソ(約7万5千円)に引きあげたのと引き換えに、違法薬物密売に関わるなどしていた悪徳警官1万3300人余りをあぶりだし、うち約5千人を解雇した。「暴力団と警察が一体となっている」といわれてきた警察の浄化も進めた。

 この国の生活者目線でドゥテルテ政権を見ると、国民が高く評価することは腑(ふ)に落ちる。人々は人権重視も大切とは知りつつ、まずは平穏に暮らせる社会を望んでいたのだ。

 ほかにもドゥテルテ氏の功績としては、切望されていた国民皆保険の導入、公立大学の無償化、女性の産休の90日から120日(シングルマザーは150日)への延長、雇い止めや偽装請負の禁止徹底などがある。政策は全般に左派的だった。

 強面のきょう客のような風貌(ふうぼう)で、10代は札付きの不良少年だったことで知られるドゥテルテ氏だが、政治家としては意外に?まともで働き者だったことに、「国民は『ギャップ萌え』してドゥテルテ大統領に夢中になった」とフィリピン政治を専門とする木場紗綾・神戸市外国語大准教授は指摘している。

 ドゥテルテ氏は「次期大統領選については中立であり続けたい」として後継者指名をしなかった。ボンボン氏を「甘やかされて育った息子」「強いリーダーシップに欠ける」とこきおろしたこともある。実際、ボンボン氏は温厚な性格で、ドゥテルテ氏のような強烈なリーダーシップは期待できないだろう。まして、アキノ政変以来、民主主義がすっかり定着しているフィリピンで父のように長期独裁体制を築くようなタイプではない。

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「父親の罪を息子に負わせるべきではない」