少子化問題に詳しい日本総研の藤波匠・上席主任研究員は、
「日本では、結婚している人が子どもを産むのは当然で、それが幸せという価値観があった」
と話す。そのため、これまで「既婚女性の出生率」は出生数を押し上げてきたが、藤波さんが国勢調査などのデータをもとに出生数の減少要因を5年ごとに分析したところ、最近の結果に大きな変化が見られたという。
それまでは、出生数減少の原因は「年齢的に出産が可能な人口」の減少と「婚姻率」が低下しているためだったが、20年に初めて「既婚女性の出生率」が押し下げ要因になったのだ。藤波さんはこう解説する。
「結婚しているカップルの持つ子どもの数が急減しています。出生意欲の低下が現在の少子化の最大の要因です」
一般財団法人「1more Baby応援団」が、既婚男女2995人と40代で出産を経験した女性409人に実施した調査結果(6月発表)によると、「今後出産する・したいと思う」と回答した人が、調査を始めた13年以降最低の47.1%に。理由は「経済的不安」が最多の62.4%、次いで「すでにいる子どもで満足している」が45.9%。既婚で子どもがいない女性に限ってみると「心理的な不安」が62.1%で最多だった。
神奈川県の看護師の女性(40)は38歳の時、第1子となる男の子を出産した。
「妊娠中は年齢を考えて、できるだけ早く2人目を、と考えていたけれど、出産後にそんなに簡単ではないと思い知った」
■家計を考えて一人っ子
経理畑の会社員の夫(37)は当初から「子どもの大学入学と夫婦の退職が重なる。家計を考えると、一人っ子でいい」とかたくなで、さらに仕事が忙しく、帰宅は深夜だ。地方で暮らす両親に頼ることもできず、平日は近所の病院でパート勤務をしながらのワンオペ生活が続く。
産婦人科医の宋美玄さんは、
「経済的な理由でそもそも結婚ができない層がいることに加え、子育てが大変だというイメージが強い。子どもを産んでから自立するまでの“課金ゲーム”に耐えられる気がしないと考える人も増えていると感じます」
政府は、保育園を作り、男性育休などの環境整備に力を注ぐ。4月から不妊治療の保険適用が広がり、5月には自民党の議員連盟が出産育児一時金を数万円増やす提言書を首相に提出した。宋さんは、自己負担が減ることを歓迎しつつも、こう話す。
「だからと言って、安心して子どもを産めるようにはならないでしょうね。目先の政策でごまかさず、もっと子どもの未来に投資するような政策を打ち出してほしい」
出生意欲の低下、ズレた少子化政策、減り続ける子どもの数。明るい話題がない中、第1子の平均出産年齢は30.9歳(21年)で、15年以降ほぼ横ばいで推移している。(編集部・古田真梨子)
※AERA 2022年6月20日号より抜粋