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(c)2020「峠 最後のサムライ」製作委員会

役所:かっこいいですよ。立派な人です(笑)。僕は以前、同じ長岡出身の山本五十六を演じたことがありますが、幕末は坂本龍馬、西郷隆盛、勝海舟など本当にスターぞろい。そんな彼らが河井継之助に一目置いていたのですから、本当にすごい人だったんだと思います。

──映画は、類いまれなリーダーとして指揮を執る継之助の姿を描く。一方、妻・おすがとの情愛も丁寧に描かれ、内なる顔をも浮かび上がらせる。

役所:戦争間際の緊迫した中で、おすがとのシーンが一番、河井継之助らしいところです。この人はほとんど家にいませんでした。帰ってきて家にいるだけでおすがは楽しかったらしいから、きっとイイ男だったんだろうと思うわけです(笑)。

松:継之助さんのひげをあたるシーンは緊張しました。小泉監督はすごく穏やかで、でも厳しくて。「できますよね」という優しい目で見てくださる。「できないですよ」と思いつつも「できない」とは言えず……。「集中!集中!」と思いながらやっていくうちに、「(シナリオに書かれている以上のことを)何か思ってくれよ、自分!」と言い聞かせて演じていました(笑)。二人のシーンが限られている分、すごくいとおしい時間でした。

──戦を前に死を覚悟する継之助は、おすがと芸者遊びをする。その帰り道、おすがの手を取る。時代が時代だけにドキッとさせられる場面だ。

役所:シナリオにはなかったんです。「手をつないでいいですか?」と監督に提案したら承知してくださいました。継之助は侍を通した人ですが、侍の世の中が終わるということもわかっている。そういう人ですから、おすがとの最後のデートになるかもしれないと手をつなぎたいと思ったのではないでしょうか。おすがは一緒に並んで歩くのも嫌だと言ってるのに「いいから」と。そのくらいかっこいい男だったのではないですかね(笑)。

松:私は手を取っていただいた時、「おすがはいま、多分、世界一幸せだな」と思いました。手を取るというただ一つの行為で、私は継之助さんという人がとても軽快な方だと感じました。あのシーンで私はおすがに飛び込めたような気がします。映画でその後のすさまじい戦のシーンを見ると、一歩家を出た継之助さんはこんな大変な思いをされていたのかと、すごく切ない気持ちになりました。

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