コロナ禍で3度の公開延期に見舞われた司馬遼太郎原作の映画「峠 最後のサムライ」が6月17日、公開される。武装中立を目指した、長岡藩士・河井継之助の魅力とは。継之助と妻・おすがを演じた役所広司、松たか子の対談をお送りする。
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役所:撮影はもう4年弱前で、最初の公開予定から1年9カ月くらい経ちました。今回ほとんどの取材で、ウクライナとロシア情勢に結びつけて聞かれましたが、この映画の持つメッセージをすごくリアルに考えさせられる時期の上映になったような気がします。
松:小泉(堯史監督)組に初めて参加しました。勉強になりましたし、幸せな現場で、すごく楽しい撮影だっただけに、この作品を、お客さまにお渡しできる日を心待ちにしていました。何度も公開が延期され、じっと待つしかないと思っていましたが、自分が関われたこの感動はやはり公開されないと伝えられませんから(笑)。
──時は幕末。徳川幕府は終焉(しゅうえん)を迎え、諸藩は東軍と西軍に二分していく。慶応4(1868)年、戊辰戦争が勃発。越後の小藩、長岡藩の家老・河井継之助(役所)は、戦争を避けようと武装中立を目指す。だが、交渉は土佐藩士・岩村精一郎(吉岡秀隆)との間で決裂。継之助は徳川譜代の大名としての義を貫き、西軍5万人にたった690人で挑むことになる。
役所:小泉監督は黒澤明監督に教わった映画作りをしっかり継承されています。準備が丁寧で、時間をかける。衣装合わせを何回も行い、監督に違和感があるたびに話し合って調整する。それが僕たち出演者にとってすごく大事なことではないかと思います。カツラやメイクも含めてですが、そんなことを繰り返すうちに、継之助がなんとなくしっくりきて。そこからですね。現場へ行き、国宝級の建物の中に入った時にはもうタイムスリップしやすくなっています。
松:これだけ大掛かりな時代劇でありながら、それぞれのシーンで「すべての準備が完璧に整っている」と感じました。しかも、完璧なのに窮屈ではない。役所さんをはじめ、香川京子さんや田中泯さん……、みなさんとお芝居をしながら、「なんて幸せなんだろう」と思っていました。
完成した映画を見た時はまず、(長岡藩を戦へ向かわせることになるきっかけを作った岩村役の)吉岡さんに「ひどいっ!」って言ってしまいました。「役だから」って冷静に返されてしまいましたけど(笑)。そして、継之助さんは、「こんなかっこいい人いる!?」って思ってしまったほどかっこよかったです。