「音響効果の仕事をしていて、音楽が足りなくなることがあるので、作曲を頼まれるようになったんです。『鞍馬天狗』や『銭形平次捕物控』の曲を作りました」

 退社後、円谷一監督に頼まれたのが「ウルトラセブン」の音楽と音響効果の仕事だった。

「『ウルトラセブン』はそれまでのウルトラシリーズの世界観を広げ、ヒューマニズムが地球を超えて宇宙にまで到達しているのが特徴です。スタッフには子ども向けの番組という意識はなく『いい加減な作品を作ってはいけない』という責任感が強くありました。テレビは影響力が大きいので、本来、どの作品も誰もが納得できるものを作るべきだと思います」

 ウルトラの音楽について、監督たちとの関わりや現場の事情まで、冬木さんは具体的に語る。ドラマになるような面白さだが、驚くべきは、背景に数多のクラシック音楽の存在があったことだ。

 その結果、本書はウルトラの音楽を通じた、クラシック入門としても読むことができる。

「作曲について、『天から啓示が降りてくるのか?』と、よく聞かれてきました。もちろんインスピレーションもありますが、どちらかと言うとロジカルに音を積み上げていくほうが近いのです」

 謙虚に考え尽くした人にだけ恩寵のように訪れる閃(ひらめ)き。仕事をする姿勢についても教えてくれる一冊だ。(ライター・矢内裕子)

AERA 2022年6月20日号