AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。『ウルトラ音楽術』は、冬木透さんと青山通さんとの共著。「ウルトラセブン」の作曲家・冬木透は幼少期を中国・長春で過ごした。戦後、冬木はいかにして音楽の道へと進み、「ウルトラセブン」の楽曲を生み出したのか。本書では作曲・録音・選曲といった制作過程での秘話や、各監督との思い出を公開。クラシック音楽にも造詣(ぞうけい)が深い青山さんを聞き手に得て、クラシック音楽、宗教音楽との関わりについても語っている。冬木さんに同書にかける思いを聞いた。

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「『ウルトラセブン』に音楽で関わることができたのは、喜びという言葉では言い表せません。私の人生における『宝物』のようなものです」

 作曲家・冬木透さん(87)はそう語る。誰もが口ずさめる「ウルトラセブン」の主題歌や“ワン・ダバダバ~”とスタイリッシュに始まる「帰ってきたウルトラマン」の「MATのテーマ」──放映から半世紀、今や3世代にわたるファンがいるウルトラシリーズの音楽を、どのように生み出してきたのだろうか。

 本書はウルトラシリーズの音楽を作曲した、冬木さんの人生と仕事を、著述家の青山通さんとまとめた。そこには豊穣(ほうじょう)なクラシック音楽の世界や中国での戦争体験があった。

「父が医師として中国で働いていたので、私の原風景は幼い頃に過ごした中国大陸の広大な原野で見た落日です。その頃に見たもの聞いたものすべてが、私の糧になったのだと思います」

 音楽との出合いもこの頃。初めてレコードを買ってもらい、帰宅した父親が聴くベートーヴェンやワーグナーに魅了された。敗戦後、帰国してから、冬木さんはますます音楽に心惹かれていく。

 広島・エリザベト音楽短期大学作曲科を1期生として卒業してから上京、ラジオ東京(現TBS)に入社した。音響課ではラジオドラマだけでなく、開始直後のテレビドラマの擬音の制作や実音の収集に携わった。

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