ジャーナリストの田原総一朗氏は、“自制”の必要性と誤りについて語る。
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アダルトビデオ(AV)の出演被害を防止し、出演者を救済するための法案が、6月15日に参院本会議で採決され、可決された。
出演者に対しての重大な被害を生じさせる恐れがあることから、年齢や性別を問わず、映像公表から1年間(施行後2年に限り2年間)は無条件で契約解除できることとなった。
新法では、出演者が撮影内容や映像公表によるリスクから翻意する可能性も踏まえ、契約成立から撮影まで1カ月、撮影から公表まで4カ月の期間を設けるとした。
AV出演被害の実態として、出演契約の強要だけではなく、貧困などを理由に出演する人もいるという。また、映像が公になった後に出演を周囲に知られて心身の健康を崩すなど、私生活に大きな悪影響を及ぼすこともあるそうだ。
AVの世界だけではない。
芸能界では若い女優などが、芝居をつけてやる、あるいは映画に出演させてやるから、ということで、プロデューサーや監督などから性的被害を受けることが、特に以前は少なからずあったようだ。最近になって、被害者が次から次へと名乗りを上げている。
問題とされている男たちは猛省すべきで、己の間違った考え方を自制しなければならない。世の多くの男たちが女性と親密になりたいがために様々な方法を用いるとしても、性的加害は許されない。
自制はまっとうな社会生活を送るうえで必要不可欠な要素である。私はジャーナリストとして、番組内やインタビューで「空気を読む」のではなく、「空気を壊す」ことを意識してきたが、その結果、行き過ぎた発言で周囲に迷惑をかけることもある。私自身、自制を心がけなければならないと考えている。
だが、組織の運営の話になると、「まっとうな社会生活には自制が必要である」という考え方には大いに疑問がある。
数年前に、東芝という大企業が、7年間粉飾決算を続けるという事件が起きた。とんでもない事件だが、少なくとも東芝の中堅以上の社員ならば、粉飾決算という事実はわかっていたはずである。だが、どの社員も粉飾の事実を上層部に言わなかった。黙っていた。