そこで後日、私は東芝の社員数人に、なぜ粉飾決算を上層部に言わなかったのだ、誰も言わないから東芝がわけのわからない企業になってしまったのではないか、と問い詰めた。
すると、社員たちは「そのとおりだが、残念ながら言えなかった。言ったら間違いなく左遷されるからだ」と答えた。
そうか、と私は改めて納得していた。日本の企業では、まっとうな社会生活を送ろうとすれば、上層部の反発を招く正論は言えない。自制しなければならないのだ。
しかし、これでは企業は新たなチャレンジができなくて、経済成長などは望めない。岸田文雄首相は、新しい資本主義を強調するが、正論が言えない社員たちで構成されている企業体質を根底から改革しなければならないはずである。
異性関係に対しては本来あるべき自制が利かず、性的加害の話が後を絶たない。一方で、自分より立場が上の者に対しては、正論が言えず萎縮して自制ばかりする。問題となる男性たちは、自制の使いどころを根本的に間違えてはいないか。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2022年7月1日号