「他者への暴力衝動のようなものは、人の中に分かちがたく存在します。私自身、作家になる前の貧しかったころは、自分が不遇だという思いが、周りの人への憎悪につながったことも少なくありませんでした。スズキタゴサクは、誰の心の中にも住み着いています」

 人は負の感情を抱えながら、どう倫理を守ることができるのか。その問いへの答えが、ある刑事が自らを称した《七十五点の男》という言葉に込められている。

「テストで百点はとれなくても『じゃあ零点でいい』とはなりませんよね。正義も同じで、悪に完全に打ち勝つことはできなくても、少しずつ理想に向かって努力することが大切です」

「爆弾」という悪意は個々人の心の中にもあり、いつ爆発するかわからない。それを抱えながらも前を向いて生きることを、本作は力強く私たちに促している。(若林良)

週刊朝日  2022年7月1日号