そんななか、ある作曲家さんに頼まれて「マディソン郡の恋」を歌うことになり、インディーズのCDがあっという間に6千枚も出て。鳥肌立ちました。そしてレコード会社さんから声をかけて頂いて、58歳でメジャーデビュー。迷いはありませんでした。20代のころ、オーディションを受けに行くと、「歌はいいけど、あと10歳若ければね」って何度も言われました。積み重ねてきたものを発表できる機会が訪れた、こんな奇跡はもう二度とない、と思ったのです。娘は「今まであれだけ一生懸命やってきたんだもの。認めてくれる人もいるだろうしファンの方も増えるんじゃない?」って言ってくれました。主人は一言、「うんそうだね」って(笑)。

 でも2作目は「マディソン郡の恋」の売り上げを超えられなかった。「こんな年齢でどうせ続きやしないよ」とか色々な声も耳に入ってきて、歌手を続けるか一人悩んでいたときに、「もう1曲歌ってくれますか?」って言われたのが「愛のままで…」でした。初めは大ヒットするなんて誰一人思わなかった。でも全国キャンペーンで地方を回ったとき、何か今までと違うなって感じました。区民館のパイプ椅子に正座して身動きせずに聴いて下さったり、拝むように私に手を合わせて下さったお客様がいたんです。90歳と84歳の夫婦は涙をこぼしながら「あなたの歌は私たちの人生そのものだわ」って。そのとき、どんな歌でも誰かの人生に関わっていく重い責任があると強く感じました。

 今まで「もう歌はやめよう」「花屋のおばさんに戻ればいい」って思うことは何度もありました。でも結局、「あなたは歌でしょ」っていう想いが湧き出てきちゃうの。魂の声に対して「そんなことないわよ」って言ってたら今はないと思う。デビューしてそれに気づいてからは、「歌うことが私の使命なのだと納得しました。歌をもっと勉強します。だから健康と、歌える環境を下さい」って口に出して自分と神様に伝えています。

 人間の一生を春夏秋冬で表すなら、還暦でデビューするって秋に花が開くようなものでしょう。まあ私、秋元ですからね。でもそれって遅咲きでもなんでもない。そのときが咲くべきときなの。家族がいて、お店も4軒やってきて、そのつながりで出会った方たちが今も応援してくれている。きっと神様が「あなたは58歳まで勉強しなさい、人脈を作りなさい、歌もたくさん覚えなさい」って時間をくれたんだな、ありがたいなと思ってます。

あきもと・じゅんこ/1947年、東京都生まれ。2005年に「マディソン郡の恋」で歌手デビュー。3作目の「愛のままで…」が大ヒットし、08年のNHK紅白歌合戦に紅組史上歴代最高齢(61歳6カ月)で初出場。今年2月には最新シングル「なぎさ橋から/いちばん素敵な港町」をリリースし、コンサートなど精力的に活動を続けている。

(構成 本誌・大谷百合絵)

※週刊朝日 7月1日号の記事に加筆

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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