損得勘定が気になる人は「総受給額」を重視するだろう。「1年」は最後まで完全連動に追いつけないが、「2年」だと「85歳」以降は「いい勝負」になる。「3年以上」は「84歳」で完全連動を追い抜き、年を追うごとに差を広げていく結果になった。

「現役の収入に対するアプローチ」ではどうか。先のニッセイ基礎研の中嶋上席研究員によると、目減り率「35%」を使うと次のように考えればいいという。

「35年間かけて35%下がっていくので、減る年金額は『底辺が35年、高さが35%の直角三角形』にたとえられます。一方、繰り下げで増える年金額は、『底辺が35年、高さがX%の長方形』にたとえられます。この二つの面積が同じになれば『目減り』する分の防衛には成功したことになります」

 二つの図形の関係をイメージ図で示したのが図だ。計算するとXは「17.5%」となり、繰り下げ増額率は月0.7%だから、「25月」繰り下げすれば目減り分がカバーできることがわかる。

「約2年で追いつけますが、繰り下げで年金額が高くなると税金や社会保険料も高くなるので、そこを考えると余裕を見て、可能なら3年程度の繰り下げをしたほうがより防衛の効果は高まると思います」(中嶋上席研究員)

 二つのアプローチとも結果は似たものになった。これらから判断すると、防衛策としての繰り下げは次の2点が成功のメルクマールになるといえそうだ。

(1)「2年」繰り下げは必須、できれば「3年」を目指す

(2)「実際の年金額からのアプローチ」では「3年」以上繰り下げて84歳以上生きれば、総受給額で物価に負けなくなる

「繰り下げ」を活用すれば「目減り」防衛はできそうだ。しかし、これは多くの人に「老後プランの見直し」を迫る事態となるだろう。

「繰り下げ」を考えていた人にとっては「2~3年」は防衛の意味しかなくなり、頭に描いていた増額が実現できなくなってしまう。「繰り下げ」年数をさらに延ばせば年金額は増やせるが、そんな余裕のある人がどれだけいるか。一方、生活費が稼げないなどで「繰り下げ」ができない人は、老後の最初の時点で目減り分の「損」が確定してしまう。物価に負ける分を補う手立てがないからだ。

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?
次のページ