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写真に写る、うっそうとした雑木林。その背後に巨大な男の顔が見える。
「たまたま、車を運転していたときに見つけたんですが、なんじゃこりゃって、思いましたね」
その正体は、アメリカ大統領の顔を巨岩に刻んだ「マウントラッシュモア」――ではなく、それを模してつくられたレプリカ。栃木県日光市にあるテーマパーク「ウエスタン村」のシンボルだ。実物は米サウスダコタ州にあり、ジョージ・ワシントンの顔の長さは約18メートル。
「その3分の1サイズなんですけど、それでも、ものすごく大きい。異様ですよ」
■アメリカなのか、日本なのか
最初、石川さんの作品を目にしたとき、それは、アメリカをイメージさせる日本の風景と、実際のアメリカの風景を組み合わせたものと思った。
ところが、「実はこれ、全部、関東近辺で写したものなんです」と明かされ、驚いた。
ハワイやカリフォルニアで写したと思い込んだ写真は、伊豆大島や栃木、群馬県で撮影したものという。
「例えば、住宅街や別荘地を訪れると、アメリカの住宅を模したような家や庭、ガレージが見つかるんです。街のなかにもアメリカのイメージを取り入れているような場所がある。一見、奇妙なんだけれども、面白い。それを写して作品にまとめる際、アメリカなのか、日本なのか、その境目がわからなくしたい、と考えました」
写真というのは、目の前の光景をストレートに写したとしても、そこにある種の「曖昧さ」が入り込んでくることがある。それが「写真の面白いところ」と、石川さんは言う。
この作品は東京の周縁部を写したものだが、それにはいくつかのきっかけがあるという。
石川さんは2016年、群馬県北部の川場村で行われたフォトコンペティションに参加した。
「そこは関東平野の縁が急に盛り上がったような地域で、切り立った妙義山や、火山の榛名山が見えた。川の周辺は河岸段丘の地形になっている。もちろんスケール感は違うんですが、映画で見るようなアメリカの景色とちょっと似ているんじゃないかな、と感じた」