経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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ふと気がつけば、便乗商法。これが岸田政権のやり方だということが解った。さしあたり、三つの便乗商法に気づいた。
便乗その一が、安全保障体制の大転換である。「安保3文書」を大幅改定し、日本国憲法が定める専守防衛の枠組みから大きく逸脱した。こんなにも本質的な大ごとを、国民に何ら相談もなしに、内輪のやり取りの中だけで決めた。この暴挙とも言うべき強引なやり方の根拠となったのが、安全保障環境の激変というテーマだった。
ロシアのウクライナ侵攻。中国の軍備増強。北朝鮮による度重なるミサイル発射。これらのことが、日本にも、自国の安全は自力で守ることを求めている。それができない日本は、危機的な状況に陥る。この手の脅し文句を連発して、国民を丸め込もうとした。今こそ、機が熟した。今なら環境変位に便乗して、国民の恐怖心と軍備増強是認感を煽れる。そのように目論んだに違いない。
便乗その二が、原子力政策のこれまた大転換である。「脱原発」から「原発推進」に切り替えてしまった。ここでは、二つの便乗商法が使われた。一つ目が「脱炭素」。二つ目が「エネルギー安全保障」だ。
原発推進が打ち出された舞台は、政府の「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」だった。原発嫌いの皆さんも、地球環境を守るための原発推進だといえば、ケチがつけ難いだろう。この姑息な発想の臭いが、むんむん滲み出てくる。