よくあるシンプルなストーリー?
主人公は中年男のソン・ギフン。借金を抱えて妻とは離婚、今は実母と二人暮らしのうだつの上がらない男だ。実母は生活のために行商を続けていて、ギフンは母のためにも、また離れて暮らす娘のためにも一発逆転を夢見ている。
そんなギフンが、謎の男に導かれてあるゲームに参加することになる。勝者となれば、456億ウォン(約45億円)が手に入るサバイバルゲーム。参加者たちは離島のような場所に設置された建物に隔離され、「だるまさんがころんだ」など子どもの頃に楽しんだゲームで競うこととなる。タイトルとなっている「イカゲーム」も韓国の子どもが親しんできた陣地取りゲームだ。ゲーム自体は単純なものばかりだが、脱落者は即射殺される。
参加者たちは年齢も性別もさまざま。それぞれにゲームに参加しなければならない背景があり、ギフンは次第に一部の参加者に心を開いていくが……というストーリーだ。
ギフンは、借金を抱えるダメ親父でありながら、実は情に厚くて友達思いというよくあるキャラ設定。演じるイ・ジョンジェは同じくNetflix配信ドラマである「補佐官」でも主人公を演じたが、「補佐官」とは打って変わって落ちぶれた雰囲気を醸し出す。大泉洋や、コミカルな演技をする際の役所広司といったところだろうか。
ストーリー自体も、勝者が決定するまで争い続けるという、これまで何度もフィクションで描かれてきたデスゲームであり、シンプルだ。
よくありそうなドラマなのに、なぜ、こんなにも世界中で人々の心をつかんでいるのか。
(1)ストーリーのテンポが抜群に良い
非常に単純な分析ではあるのだが、言語の壁を超えるためにもこの点は大きいのではないかと感じる。日本語版ツイッターでも目立つのは「一気見した」「一気に完走」という感想だ。筆者の知人でも、途中まで試聴していた他のドラマシリーズをいったん保留にして見始めたところ、気づいたら「イカゲーム」を先に見終わっていたという人がいる。
とにかくストーリーのテンポが良く、途中で飽きさせない。視聴者に「次はどうなるのだろう?」「これはなんの伏線なのか?」と思わせる箇所が1回の中に何度もあり、惜しみなくその小さな伏線が回収されていく。
また、うまいなと思わされたのが、前半でゲーム参加者らの背景が明らかになる仕掛けだ。
隔離された場所でのサバイバルゲームの場合、参加者たちの過去や素性はどうしても回想シーンや本人の語りに頼らざるを得なくなる。しかし『イカゲーム』では、ゲームのあるルールを使うことによって、参加者の背景説明をストーリーの中にうまく組み込ませた。脱北者、チンピラ、外国人労働者、落ちぶれたエリートと、どれもわかりやすいキャラクターだけに、最低限の背景描写だけで理解できるということもあるだろう。