ドリトル先生とビーグル号の冒険のルート。福岡さんの2020年のガラパゴスへ旅は、ビーグル号が実際に辿ったルートと同様の行程で進んだ
ドリトル先生とビーグル号の冒険のルート。福岡さんの2020年のガラパゴスへ旅は、ビーグル号が実際に辿ったルートと同様の行程で進んだ

■貧しい少年の成長物語

 しかも、スタビンズくんを子ども扱いしないんです。スタビンズくんの本名はトミー・スタビンズですが、原文では「ミスター・スタビンズ」です。トミーとか坊やとか、子ども扱いせずにいつも「ミスター・スタビンズ」と呼んでいる、そんな大人はスタビンズくんにとって初めてだったわけです。ヒュー・ロフティングがどこまで考えていたのかわかりませんが、この構造が素晴らしいんですね。ドリトル先生の物語というのは、スタビンズくんの成長物語でもあるので、そこを今回も大切にして書いたつもりです。

──本書では、ドリトル先生を「ナチュラリスト」と紹介していますね。

 実は、原作でも、ドリトル先生は自分のことをナチュラリストと言っているんです。それを井伏鱒二先生が「博物学者」と翻訳したんですね。今となってはちょっと古色蒼然たる「学者」のイメージになってしまっています。そもそもナチュラリストというのは自然を愛する人という意味です。そこで福岡版のドリトル先生は、本来の自然を愛し、自然の声に耳を傾ける人という意味でナチュラリストを復興しようと思ったわけです。

■少し背伸びして読む

──読者対象は小学校5年生から大人までとなっていますが、子どもには少し難しい言葉も出てきます。

 編集段階でもこの言葉は難しすぎるんじゃないかというご指摘を受けました。書き直したところもありますが、あえて難しい漢字のままにしたところもあります。それはどうしてかというと、子どもって意外と子ども扱いされたくないんですよね。自分の体験からも、少年少女が読む本というのは、少し背伸びして読んでもらいたいなといつも思うんです。

 読んでいると、ところどころ意味はわかるけど読み方がわからない漢字とか、ちょっと難しい言い回しとかが出てくるかもしれませんが、そういう言葉は心のどこかに小石みたいに沈んで残ります。やがて後になって「ああ、こういう言葉だったんだ」という再発見や気づきにつながるものです。ある種の教育効果といいますか、この本ではじめて出合う単語や言葉を大切にしてもらいたかった。そういう意味で、あえて難しい言葉もそのまま残したところもあります。

 たとえ一人で読んでわからなくても文脈的に推察できるものばかりですから、ちょっとひっかかってくれるのではないかと思っています。

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