■ドリトル先生の時代
そんなとき、1800年代の前半といえばドリトル先生の時代ですから、ドリトル先生がダーウィンたちに先回りしてガラパゴスを救う物語にしたら面白いんじゃないかって思ったんです。ドリトル先生は、私にとって読書のきっかけを作ってくれた物語です。ドリトル先生を出発点にして大人向きのSFを読みはじめました。とても愛着がある物語だったんです。
ドリトル先生がガラパゴスを救うために、動物たちと奮闘しているシーンを思い浮かべたら、急にドリトル先生や助手のスタビンズくんらがイキイキと話し始めたわけです。小説家の方が「小説を書くときにボイス(声)が聞こえる」と言いますが、そういう体験がまさに私にも起こったのです。これだったら小説が書けるかもしれない! つまりドリトル先生という舞台をお借りして物語を作って、そこに私のさまざまな思いを入れ込んでいけば、村上春樹風にもならず(笑)、あまり恥ずかしくなく物語が書けるんじゃないかなって思ったんですね。原作者のヒュー・ロフティングは、1947年に亡くなっています。死後70年の著作権保護期間も切れて、二次創作も法的に可能になっていたのも幸いでした。
──本書を読んでいると、助手のスタビンズくんの学ぶことや諦めない姿勢に目を奪われます。
オリジナル版のドリトル先生の物語は12巻あるのですが、2作目の『ドリトル先生航海記』からスタビンズくんが登場します。ドリトル先生を読むと、みんなスタビンズくんに感情移入してしまうわけです。なぜかというとスタビンズくんという貧しい少年が、ある意味で理想の大人に出会うからです。その理想の大人であるドリトル先生は、いろいろなことを教えてくれるし、未知の冒険にも連れて行ってくれます。子どもっていうのは、いつも親や先生からは「あれしなさい、これしなさい」って命令されがちですが、ドリトル先生は、そんなことは一切言わない。子どもと親や先生のような垂直の関係ではなくて、斜めの関係だからなんですね。