「でも、弾き語りの音源をアップしたり、工夫してしのいできました。仲間にも恵まれている。今は小さな子どもの目の前でお母さんが亡くなっているような状況です。本当なら助かっていたはずの人ですよ。そして弱い立場の方から先に命を落としていくという現実がある。それを考えると、自分が苦しい職種だということは忘れていました」
現場でコロナ患者と向き合い続ける、医療関係者からも反響があった。感染症専門医で大阪大の忽那賢志教授も自身のツイッターで「感銘を受けた」と投稿。1000人の医師を擁する往診医チームであるファスト・ドクターは、フードレスキューを取り入れ、自宅療養者への診療時に食料手渡しを始めた。
当初は七尾さんのファンや音楽好きの間で話題になった活動が、さらに知れ渡った。
「コロナと正面切って戦うことのできるお医者さんたちは素晴らしいですが、僕らには医療の知識はありません。そんな僕らが自宅放置の問題に立ち向かうなら、ご飯や物資のケアかなと思った。ちゃんとした医療の現場に迎え入れられるまでの、つなぎができればいい」
フードレスキューをはじめて1週間。少しずつ依頼も増え始めた。家庭内感染をしたというシングルマザーから「子どものために、もし可能なら」と頼まれたクロスワードパズル雑誌を食糧セットのすきまに混ぜ込み、高齢者や基礎疾患を抱えた家族のいるケースでは、家庭内感染のリスクを抑えるために、サージカルマスクやビニール手袋などの物資も同送するなど、相手の状況に合わせてレスキューを続けている。
本来の趣旨とは異なるが、コロナ失業で自己破産し苦しんでいた男性にも食料を送付した。
「しがらみなんかもあって、身近な人には助けてほしいと言いづらいかもしれません。でも、僕は赤の他人。無駄な遠慮はやめて、いつでもレスキュー依頼をしてほしいです」
(編集部・福井しほ)
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