「その学生の子も『連絡するのをけっこう迷った』と書いていました。国民性もあるかもしれませんが、遠慮の気持ちが極端に強いですよね。僕自身、自分がもしコロナに感染した場合、知らないミュージシャンがメシを送るよって書いていても絶対にメールできないタイプです(笑)。それから、陽性者であること自体を隠さなきゃと考えている人が多い。コロナ差別のようなことが、いまだにあるようで、腹立たしいです」
助けてほしい気持ちはあっても、助けてと言えない――。そんな人たちがいる一方で、七尾さんに共鳴し、「自分も周りの人を助けたい」と全国からフードレスキューに名乗り出る人も現れた。賛同者が出ることは予想外だったが、プライバシーや信頼度の確認などをするようにいくつかの注意書きをして、その人たちのSNSアカウントも自身の「note」にまとめて紹介した。
七尾さん自身も会ったことがない人がほとんどで、信頼できるのはツイートにある140字だけ。不安や迷いはなかったのか。
「もちろんありました。でも、助けたいという思いを持った個人が現実にたくさん存在することを示していくことにも意味があると思っています。この1年半、人間のエゴがよりむき出しになっている感じがしていました。余裕がなくなり、争いも絶えない。他者のことが想像できなくなっている。社会の中にあったはずの最低限の信頼がいろんな形で崩されてしまい、殺伐とした空気に覆われていますが、自発的に誰かを支えようと考えている個々人の声が可視化されれば、そのムードを多少なりとも変えることができるし、これまでとは違う、新しい常識を生み出していける」
活動には、お金や時間も必要になる。七尾さんのいる音楽シーンはコロナ禍の打撃を最初に受けた業界でもある。ライブやイベントは次々と中止や延期になり、先が見通せないと音楽活動を辞めた人もいる。七尾さんも昨年2月から何度も仕事がなくなり、「ライブもできていないし、けして裕福じゃありません」。