シンガー・ソングライターの七尾旅人さん。「note」やTwitter(@tavito_net)でフードレスキューを呼びかけている(提供)
シンガー・ソングライターの七尾旅人さん。「note」やTwitter(@tavito_net)でフードレスキューを呼びかけている(提供)
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<今ひとりきりで自宅療養して食料も届かず、ひもじい思いをしてる人へ>

 そんな書き出しのツイートが8月22日、SNSを駆け巡った。その2日前には、厚労省が全国の自宅療養者数が10万人に迫ると発表。自治体から療養者に届くはずの配食サービスが届いていない、という声も目立ち始めた。ツイートはこう続いた。

【リスト】備えておきたい!自宅療養の必須15項目

<何か買って持って行こうか? 家の外に置き配なら出来そう。>

 シンガー・ソングライターの七尾旅人さん(42)の投稿だった。新型コロナウイルスで自宅療養をしていた千葉県の妊婦が医療逼迫による救急搬送の遅れで新生児を亡くしたこと、親子3人で自宅療養していた家族の母親(40代)が亡くなったことなどの現実に居ても立っても居られなくなり、ツイートしたという。七尾さんは言う。

「コロナ禍によって社会が壊れてしまいましたが、政治が状況を好転できないことで、無事に生き延びていたはずの家族まで壊れていってる。保健所の食事セットも届かない。一般家庭で感染力の強いデルタ株を食い止めようとしても限界がある。自宅療養は実質ただの自宅放置であり、棄民であり、ネグレクトです。勝手に生き延びろ、それができなきゃ勝手に死ねという話だと思った」

 まずは自身が住んでいる地域で自宅療養をしている人を助けたいと「横須賀エリア限定」でフードレスキューの募集をかけた。ツイートは3千件以上リツイートされ、いいねは1万件。予想外の反響だった。

 予想はさらに大きくはずれる。なるべく大勢に食べ物を届けるつもりで始めたが、なかなか応募が集まらない。そこで、24日にはエリアを全国に拡大。関西で1人暮らし中の大学院生からメールが届いた。

「数日前から体調が悪く、味覚や嗅覚の異常も感じていたようです。でも、保健所に何度電話をしても話し中でつながらない。保健所がすべての窓口である以上、PCR検査も医療判断も受けられていないということだから、感染者数にすらカウントされない。隠された陽性者がたくさんいて、なんのサポートも受けられずに苦しんでいることを、強く実感しましたね」(七尾さん)

 メールで食べられそうなものを聞いて、おいしいと評判のレトルトおかゆや柔麺、栄養価の高い飲み物をAmazonで注文。他に必要なものがあれば、いつでも連絡してほしいとも伝えた。

 だが、24日時点でSOSを発したのはその学生だけだった。七尾さんはこう分析する。

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「僕自身、メールできないタイプ」