一方で枡野さんは住職らしく「『ご縁』に従う」ということも言っています。それもいいですね。他人とうまくいかなければ、「縁がなかった」と考えて無理をしない。でも縁は大事にする。患者さんとの出会いも縁です。私はその縁に感謝しながら診察しています。
心をすり減らさないよう「やたらに『反応しない』」というのもいいですね。そのためには「情報の入り口を時々ふさぐ」。
私は無駄にテレビを見ない、嫌な記事がある新聞は読まないことで、それを実践しています。
そして大事なのは「目の前の仕事に没頭する」こと。これも大いに賛成です。目の前の仕事こそがわが道と思えば、余計なものは目に入らなくなります。
次に「得意なことを磨き上げる」。得意なことに力を注ぎ、苦手なことは放っておけばいいというのです。ちなみに私が磨き上げたいのは、太極拳ですね。
「人は『本来無一物』」と説いているのも、納得できます。事物はすべて本来空であるから、執着すべきものは何一つないという意味の禅語です。私の場合は、死ぬその日まで立ち働いて日銭を稼ぎ、その金で晩酌を楽しみたいと思っています。それだけで十分です。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2022年7月22日号